眩暈

いよいよ問題の『眩暈』である。『本格ミステリー宣言』で高らかに宣言されていたように、作品の前段階で「詩美性のある」、「幻想性のある謎」を現出させ、後段に至るにつれてこれを「精緻な論理的推理」によって解体していく「本格ミステリー」の実験作である。
綾辻行人氏がこの作品に異を唱えたということであるが、それは「読後感」の問題なのではなかろうか、と単純な僕は考えてしまう。
僕が気になるのは、「占星術」にしろ、「眩暈」にしろ、それこそ「黒猫館」にしろ、そして「異邦の騎士」にしても、重要な鍵となるのが「手記」や「日記」あるいは「手紙」の存在にあるということだ。私たちはかくもあのように眼前の紙に記されている「手記」の内容をまずは現実のものとして受け取るのだろうか・・・と。いや、待てよ!受け取るではないか!受け取ってきたではないか!と気づいたのである。まさに全ては「脳」の産み出す正の幻なのである。

眩暈 (講談社文庫)

眩暈 (講談社文庫)