古尾谷雅人

 大森一樹1980年監督のこの作品はまごうことなき名作であるが、今は亡き古尾谷雅人を見るとあまりに悲しい。「その後の」ヒポクラテスたちをぜひ観たかった。
 『セント・エルモス・ファイアー』と比べるとよくわかるのだが、『セント』が登場人物七人をほぼ均等に描いているのに対して(僕のお気に入りのエミリオ・エステベスは若干軽く扱われているが)、『ヒポクラ』は完全に主人公荻野愛作の視点が中心である。また、彼は臨床実習のグループと寮のグループ、二つのサークルの同心円の中心にいる。その意味でも医学生たちのモラトリアムを描いたこの作品は単純な“青春群像劇”ではない。
 それにしてもこの時代の作品の登場人物たちはとにかくよく煙草を吸う。とくに『ヒポクラ』では医学生なのにみんな病院でスパスパ。伊藤蘭ちゃんもスパスパ。今なら考えられないよね〜(^_^;)でも好きだなこの時代とこの雰囲気(煙草も悪くない)。それに「医学生」という呼称。今なら一般的に「医学部生」と言うよね。経済学部生、文学部生、工学部生、医学部生・・・という感じで。でもこの時代(かろうじて70年代に引っかかっている)にはまだ「医学生」というちょっと特権的な、というか矜持をもった呼称が残っていたのかしら。それに今の人がこの映画を観たら、彼ら医学生の学生運動のシークエンスはちょっとピンとこないかもね。
ヒポクラテスたち [DVD]